2013年9月23日月曜日

スポーツセダンはもはや死語か?

  セダンが史上最高に「スポーツ」だった時期はいつだったでしょうか? 2000年頃のホンダ・アコードやトヨタ・アルテッツァはセダンとスポーツカーの2つの魅力を備えた名車だったように思います。相反する2つの要素を両立させると当然に、スポーツカーでもないし、セダンでもないという手厳しい意見が評論家からも当然出ました。それでもアコードは海外では「ファミリーカーの枠を超えた走り」と絶賛されました。

  私の周りにいる人々に聞く限りだと、当時のアコードはカッコ良くて、速くて最高の入門車だったいう意見が大勢です。5ナンバーサイズで峠も市街地も楽々で、エンジングレードも細かく分かれて1.8L、2.0L、2.2Lと直4にとってベストなサイズに3グレード設定!さらに「ユーロR」という高出力モデルもある!このクルマのコンセプトを維持したまま、今の水準に叩き直して発売すれば大ヒットしそうな予感です。

  なんでこういう魅力的なクルマが現行モデルに無いのか? 当時はFRのドリ車が大人気でFFなんて興味ないという人が多くて、ホンダとしては目論み通りのヒットとはいかなかったようです。このアコードはどうも世に出るのが早過ぎたようです。それにしてもホンダの日本市場における中型車の出し渋りぶりは異様です。なんでシビックを売らないのかも理由がわかりません。アコード・シビック・インテグラが築いてきた輝かしい中型車の栄光は今のホンダのラインアップには全くと言っていいほど残っていません。

  トヨタのアルテッツァの系譜はレクサスISへと受け継がれました。ただスポーツと言えるグレードは最上級のIS350のみで、未だにスポーツセダンと称されることがありますが、「高級サルーン」にスポーツグレードが設定されているといった方がしっくりきます。「Fスポーツ」という紛らわしいグレード名がありますが、これは外装以外で主な付加装備は「可変ダンパー」です。これは簡単に言うと、「トヨタ=ジャーマン」切り替えスイッチと言えるもので、日本において絶対的な地位になってしまった感のあるドイツ車の足回りをスイッチ一つで体験できますよ!という機能です。

  この機能を「ノーマル(トヨタ=モード)」にしておけば、静粛で突き上げを極限まで吸収した滑らかなトヨタが誇る乗り味が得られます。これを「スポーツ(ジャーマン=モード)」にすると、サスの剛性が上がり突き上げのショックは多くなりますが、安定性が飛躍的に向上し高速走行での恐怖感が減ります。まあ「どっちもいいでしょう?」ってのがトヨタの言い分なのでしょうが・・・。

  結局のところ現行のISのスポーツ性を追求したIS350は、アルテッツアというよりアリストに近いという意味で、「スポーツセダン」と称されるのだと思います。スポーツセダンには大きく分けて、コーナーリング性能に優れるタイプと、最高速に優れるタイプの2種類あります。前者がアルテッツァで後者がアリストです。どちらも4ドアセダンという不利な条件を背負ってもなお、ファミリーカーを超越したスポーツ性を誇っていました。それでも悪意溢れる評論家によってアルテッツァは「パワー不足」などと断罪されるという愚かな歴史の上に出来上がったのが、今の日本のクルマ文化だったりします。

  スポーツセダンに対する二種類の定義を曖昧にしたまま、評論家の都合に合わせてスポーツセダンを論じてきた結果が、日本車の価値を著しく毀損していきました。その一方で「速くもなければ曲がれもしない」「重くてガッチリしただけの」ワケのわからないドイツ車が「スポーツセダン」としての理想に近いという「風潮」「風説」が成立したことは日本のカージャーナリズムにおける最大の不祥事だったと思います。

  2000年当時はアコードは「ファミリーカー」でしたがその枠を超えた「走りのクルマ」と評されました。しかし現在ではSUVやミニバン、コンパクトカーが溢れる中でアコードの属する中型セダンは「速くて当たり前のクルマ」と見做されています。ファミリーカーの枠を走りで超えられないセダンなんてとっくに絶滅してしまいました。よって現在ではあえて「スポーツセダン」と呼称することに違和感を感じます。BMWもメルセデスもさりげなく1.8Lや2LのNAモデルを日本に持ち込むのを止めました。ホンダやマツダの中型車向けNAエンジンに比べたら、「ウルサくて回らないガラクタ」に過ぎないドイツのエンジンでは、もはや日本でセダンとして販売することは事実上不可能になりました。

  「セダン」は日本や欧州ではもはや「ファミリーカー」ではなく「高性能車」であり、その評価はGTカーとしてどれだけ高いレベルにあるか?に一元化されつつあるように思います。スポーツセダンと呼称されるレクサスGS・ISですが、LS460より走行性能が優れるかというとそうではありません。トヨタの「スポーツ」って何なの?という気がしなくもないです。ホンダはそういう状況をシニカルに見ているようで、新たなる分野の「ファミリーカー」の「スポーツ化」に熱心に取り組んでいるようです。オディッセイ、ストリーム、フィットといったクルマこそ「スポーツ」の名が相応しいのかもしれません。

  

  


  


  

  

2013年9月18日水曜日

日本のセダンのイメージを歪める存在

  セダンが日本で売れなくなった理由は、誰も公には発言しようとしないが、多くのクルマ愛好者はその理由がはっきり解っている。V.I.Pカーだ。中古のセダンに下品極まりない改造を施し、その多くは無理な改造によって、トヨタや日産の先端技術を集約した高級セダンの乗り味は失われ、真っ直ぐ走れないなど高級車とは思えない悲惨な状態になっていたりする。そういうクルマを夜中の甲州街道や青梅街道で見かけるが、心が張り裂けそうになる・・・。いやもうそんな気持ちなんて持ち合わせていない。セルシオ・マークⅡ・セドリック・グロリアといった旧型のセダンには「軽蔑」の念しか湧かない。

  クラウンもマークⅡもかつては毎月10000台以上売れていた。景気が良かったというのもあるが、170万円くらいでそれらのフラッグシップカーが買えたのだから、今のアクアやノートを買う感覚でみんなセダンを買っていたのだ。もちろん今より平均月収が高かったりする。当時にクルマ文化にどっぷり浸かっていた世代が今のセダンを「高すぎる」と批判しているようだが、むしろ高くなってよかったとすら思う。今の新型セダンを乗り回している若者は昔の若者より数段イケているのかな?

  とにかく、セダンのイメージをぶち壊した旧型車と、今の新型車が同じセダンという括りに違和感を感じる。コイツらは「V.I.Pカー」として隔離しておきたい気分だ。人気が急落したセダンは車種が極めて少なくなり、販売数の低迷から細かいグレード分けも行われず、パワーユニットも1種類のみというモデルも多くなっている。

  現行モデルではカムリHV・アコードHV・キザシ・レクサスHS・SAIがこの「1グレードエンジン」制だ。それぞれにブランドの上級車種として売られているが、日本にイマイチ浸透しないFFのせいかメーカーが及び腰になっているのが解る。作っている側の人間は専ら北米市場を考えていて、そのついでに日本にも投入しただけなので、売れようが売れまいがあまり重要ではなさそうだ。メーカーがやる気がない様子が、そのままユーザーにも伝わってしまい、どうしてもクルマの魅力が乏しいと感じてしまう。

  この点に関してはドイツのプレミアムブランドは完全に正しいと思う。エンジンが選択できるというのはセダンの魅力の根幹だという意識が日本メーカーには希薄なのか? 少なくともこの5台の日本での販売に於いて、ドイツプレミアムの同クラスをまったく意識してはいないのだろう。結局のところ旧型のクラウンやマークⅡからの乗り換え需要を取込めれば十分なのかもしれない。いずれのクルマもハンドリングはユルユルで、バスを運転している感覚すらある。大型車(いずれも中型車だが・・・)を動かしているという実感があればそれでいいということか?

  同じカテゴリーのクルマにFFで6気筒を積んでいるティアナも放り込んでいいかもしれない。車格と高級感が備わっていればそれでいいという設計思想には、私は強烈な違和感を感じる。ただこの日産の「方法論」はそのままシルフィへと受け継がれている。断っておくが日産が作るだけあって、「悪」と断定できるクルマではなくて、電子デバイスでクルマの挙動をモニアリングしつつトラクションを制御するシステムの優秀さは世界一かもしれない。しかしクルマの初期設計で「BMWを殺るのはスカイラインの役割」というメーカーの明確な意志もあったのだろう、それ以上の乗り味を追求しようという意志は感じられない。そもそもティアナのフロントヘビーなFF6気筒や、シルフィの安価なサス(トーションビーム)では、どう頑張ってみたところでBMWの影すら踏めないだろう。

  もちろんFF設計を生かして、キャビンやトランクを広く取れるレイアウトや、静音・遮音設計に関しては、ドイツ車に完勝している。さらに内装の上質感なら性能に関係なくいくらでも高められるのできっちり「仕事」がされている。重ね重ね申し上げるがティアナもシルフィも、日本市場で高齢者が乗るクルマとしては極めて洗練された設計だ。後席にお客を乗せるというフォーマルなニーズにも十分に応えられる。少なくとも突き上げのキツいBMWの後席に比べれば抜群の乗り心地だ。

  それでもこれらのクルマに人気が出ない理由は、普通に考えて運転していて楽しくないだろうと感じさせてしまうからだ。ティアナやシルフィに乗っている人に感想を訊くと、みな一様に高級車に見えるかどうか?という基準で判断して購入しているようだ。「高級かどうか?」おそらくこの手の判断基準こそが、筋金入りのドイツ車愛好家の皆様が一番嫌う考え方で、日本車のイメージを失墜させている最大の「癌」なのだろう(ドイツ車ユーザーにも同じような考えの人はたくさんいるが・・・)。ティアナ・シルフィのユーザーの方には大変失礼だが、このクルマが持つ価値観・評価基準は悪名高きV.I.Pカーのそれと全く同種のものだ。

  BMWもポルシェも昔から「高級車」として意識されて作られたクルマではなかった。現行モデルに至るまで、この両ブランドが「高級さ」を前面に押し出して作ったクルマがあるだろうか(※)?BMWやポルシェの内装を見て高級だと思ったことは一度もない。駐車場で隣りに止まったBMWの内装のヒドさを見て呆れたことは何度となくあるけど。BMWやポルシェが高級車だというのはバブル以降の日本人の頭になんとなく構築された幻想に過ぎない。けど多くのファンに支持されて歴史を刻んだ結果、クルマそのものに「付加価値」が認められて、後付けで「高級車」に区分されるようになっただけだ。

  レクサスや日産の「高級」モデルはそれこそクラス世界トップくらいの勢いで、スゴい作り込みがされている。どちらも趣味が悪いということもなく私はとても感心しているし、両ブランドの最大の武器と言ってもいいほどの長所だと思う。それでもドイツ車好きの皆様から見れば、そのいうクルマの作り方こそが「邪道」なのだろう。ポルシェやBMWの美学に心酔しきっている本物のファンから見れば「唾棄」すべき存在なんじゃないだろうか? その気持ちはとてもよく分かる・・・。しかし同時に日本ではレクサスからBMWに乗り換えたり、あるいはその反対に乗り換えたりといったポリシーが無さそうな人々も残念ながら多い。これではトヨタや日産もまともなクルマを作ろうなんて、さらさら思わなくなるのも無理もない・・・。


(※)・・・カイエンとパナメーラを除く。この2台はポルシェの尊厳を汚している!


↓「良いクルマ、悪いクルマ、最低のクルマ」日本語版/原版は英誌「Car」
  

  

  

  

  

  

2013年9月10日火曜日

「峠セダン」で塩沢峠を超えてみた・・・

  この夏は軽井沢まで2回ドライブしてきました。なんでわざわざ2回かというと、埼玉や群馬の有名な峠道をDセグセダンでどれだけ快適に走るかの検証が主な目的でした。お盆真っ盛りの軽井沢の渋滞にはほとほと困りましたが、東京から軽井沢まで7つの峠を超えるアップダウンの激しいルートでしたが、燃費は意外と悪くないので驚きました。やはり燃費の悪化を招くのは信号とエコカーの多さなのだなと改めて思いました。

  長期の旅行に出ている母に頼まれて、早朝から東京都西端部にある実家の庭で「水まき」をしてから軽井沢へ向かいました、東京西部〜軽井沢へ・・・超えた峠は以下の通りです。

(1)埼玉県道53号線・山伏峠  
(2)国道299号線旧道・正丸峠  
(3)埼玉県道11号線・定峰峠  
(4)群馬県道71号線・土坂峠  
(5)群馬県道46号線・塩沢峠 
(6)群馬県道196号線・妙義山 
(7)国道18号線・碓氷峠

結論を先に言うと、全ての峠で車幅1795mmのセダンでも余裕で走ることができました。正丸峠・定峰峠・土坂峠・妙義山・碓氷峠はイニシャルDのコースとして登場するほどなので、事前に特に心配はしていませんでした。ややビビっていた山伏峠と塩沢峠も交通量が少ないこともあり、かなりスイスイと走って行けました。

  青梅市から埼玉県名栗村へ向かう途中にある山伏峠は前後の区間が直線的だったこともあり、やや元気に走ってしまった結果、途中でフォレスターに前を譲ってもらうという申し訳ない体験をしました。しかし早朝からこんな場所でフォレスターを乗り回す初老の男性が「普通」のドライバーなはずはなく、猛烈な追撃が正丸峠の入り口まで続きました。初コースもなんのその、振り切ってやろうと奮闘しましたが、せっかく引き離しても1.5車線区間のすれ違いで減速する度に追いつかれ、最後は旧道の正丸峠にゆっくりと右折して入っていくところを、お返しとばかりにブォンと高速ですり抜けていきました。スバル族は怖い怖い・・・。

  路面が荒れ放題でトラクションに苦闘するだけの正丸峠を抜けて、定峰峠までは大自然の中を駆け抜ける林道になっています。すれ違うクルマもなく長い距離を誰にも邪魔されずに単独で走れる「至高の」ドライブ区間です。ただ林道がなかなか複雑に枝分かれしていて、事前に用意した林道マップ(ナビは全く使えません)を頭に入れての走行でしたが、2度ほど間違えました。とにかく解りづらいのが難点ですね・・・。定峰峠に出ると沿線に民家やお店なども見られる区間もちらほらあって、あまり無謀な運転ができないルートです。正丸峠に比べたら路面状況は良好でストレスなく走れます。

  秩父盆地の北方を横断して埼玉〜群馬の県境を超える土坂峠に入ります。両県側ともとてもよく道路が整備されていて、7つの峠では最速のステージだったかなと思います。ほぼ全然に渡って余裕を持って中央線が引かれています。高低差があって良好な路面なので、高出力車でヒルクライムを楽しむ絶好のステージです。榛名山や妙義山に負けないほどのダイナミックなコースになっていますが、近くに有名な観光地がないこともあって、交通量はまばらでした。

  土坂峠のとなりの塩沢峠はバイク・自転車の聖地になっているようで、4輪はややお呼びでない感じもあります。多くのバイカーが惹き付けるのは恐らく近隣では類を見ないほどの「絶景スポット」がルートに点在するからだと思います。土坂峠まではすんなり通れてしまったので、だいぶ油断していましたが、4輪だとすれ違いができるポイントがかなり限られています。交通量がほとんどなかったので後退して待避するシーンなどは1度も無かったですが、頂上付近の道はかなりの難所になっています。5mクラスのセダンでは通行が困難だと思います。私の4.7mのDセグセダンが単独で走行するにはなにも問題はなかったです。

  妙義山は頂上に駐車場が整備されていることもあり、安中方面からスポーツカーが爆音でかなり登ってきます。NSX、インテR、エボといったヒルクライム向けの車種が多かったです。さすがは名高い上毛三山の1つだけあって、いまでも多くの走り屋を惹き付けて止まないようです。一方で富岡市側から登る人は少ないようです。

  妙義山を超えて国道18号に合流し、横川を過ぎると碓氷峠が始まります。夏休みの土日ということもあり、観光バスが旧道を登っていきます。後ろにはミニバンやスポーツカーが数珠つなぎになっていて、もはや楽しいドライブは望むべくもありません。さすがに一大観光地の軽井沢への主要ルートになっているので、他の峠とは賑わいが違います。この峠はこの8月に2回訪れていて、そのときは平日だったので、日中もクルマはまばらでロードスターやセリカで楽しむ人がチラホラいてそこそこ快適に走ることができました。

  目的地・軽井沢は案の定の大混雑で、信号知らずの峠を7つをノンストップで超えてきたあとにこの渋滞はなかなか辛いものがありました。軽井沢駅前の渋滞にハマりながら、そもそも1日で7峠を超える意味があったのか?とか考えちゃいました。帰りは18号〜254号線の自動車専用道化している幹線国道を突っ走りました。夜になれば混雑もなくこれはこれで楽しいですね。日中はエコカー渋滞地獄なのでしょうけど・・・。